全国でも例のない連続合成桁の床版取替工事
中央自動車道多摩川橋床版取替工事
中央自動車道の多摩川橋は供用してから50年以上が経過し,RC床版の老朽化が進行しているため,今後も長期間にわたって供用するためのリニューアル工事を行っています。本工事は劣化した既設RC床版をプレキャストPC床版(SLJスラブ)に取り替える工事です。上下線それぞれ2車線ずつの4車線を,工事中にも確保するため,中央分離帯部分を改良して2車線分の走行路として活用しています。車線確保のために,橋梁を上り線,下り線,中央分離帯部分の3つに区切って工事箇所をシフトしながらプレキャストPC床版への取り換えを進めています。


プレストレスが導入された連続合成桁の既設床版撤去の課題を当社JV詳細設計で指摘
➡ 課題解決案を提案・実施
鋼桁橋には合成桁と非合成桁があります。主桁のみで荷重伝達する非合成桁に対し,多摩川橋はずれ止めを介して主桁と床版が一体となって荷重伝達する合成桁です。また,合成桁は当初,単純桁のみへの採用でしたが,多摩川橋は建設当初に適用され始めた「連続桁構造の合成桁」として施工されました。
当時の連続合成桁では,中間支点上の負曲げに対して,支点部をジャッキアップダウンすることや床版内へPC鋼材を配置することによってプレストレスを導入する方法が主流となっていました。多摩川橋は,鋼桁をジャッキアップした状態で床版コンクリートを打設し,強度発現後にジャッキダウンをすることによりRC床版に橋軸方向のプレストレスを導入して施工されました。このことから,床版の一部撤去によって床版が負担していた応力が解放されるため,桁の応力度が許容値を超過し,横倒れ座屈を起こす恐れがあることが当社JVの詳細設計時に明らかとなりました。また,横倒れ座屈に対して鋼桁補強を行うにも,既設床版が撤去されていない状況では,必要な補強が十分に行えないこともわかりました。
この問題を解決するため,建設時と逆の工程でプレストレスを除去し,桁に発生する応力度を低減することで,許容値の超過を避ける撤去方法を提案し,実際の施工で採用されています。

PC・鋼,上部工・下部工すべての技術を網羅するオリエンタル白石グループは,多くの設計・施工実績で培った高い技術を,中央自動車道多摩川橋床版取替のような更新工事における未知の課題解決に活かしています。
工事データ
工事名 | 中央自動車道(特定更新等)多摩川橋床版取替工事(平成30年度) |
---|---|
発注者 | 中日本高速道路株式会社八王子支社八王子保全・サービスセンター |
受注者 | オリエンタル白石株式会社・日本橋梁株式会社特定建設工事共同企業体 |
工事箇所 | (自)東京都国立市谷保 (至)東京都八王子市宇津木 中央自動車道KP18.604~KP19.032 |
工期 | (自)2019年8月26日 (至)2028年9月30日 |
橋梁形式 | PC単純ポストテンションT桁橋+鋼3径間連続合成鈑桁橋(3連) +PC単純ポストテンションT桁橋 |
橋長 | 20.470m(A1-P1)+43.040m×3×3(P1-P10)+20.470m(P10-A2)=428.300m |
幅員 | 12.600m(中央分離帯拡幅後26.300m) |
車線幅員 | 3.600m |

施工ステップ
【現況】
多摩川橋は,上下線とも鋼4主桁,3径間連続合成桁×3連で構成されており,当時は中央自動車道で唯一の合成桁橋です。既設RC床版は厚さ160mm,鋼桁を打上(標準支間で94cm)し,コンクリート打設,コンクリート硬化後,打下を行い,床版の橋軸方向に最大6.0N/mm2(現時点ではクリープ・乾燥収縮が完了しているとし解析より最大3.7N/mm2)のプレストレスが導入されています。

【ステップ1 縁石撤去】
中央分離帯の拡幅を行うため,現道の走行および追越車線を,それぞれ路肩側に車線シフトを行う にあたって障害となる縁石の撤去を行います。

【ステップ2 中央分離帯拡幅のための車線シフト・固定規制設置】
中央分離帯の拡幅を行うため,現道の走行および追越車線の幅を3.6mから3.25mに縮小し,それぞれ路肩側に車線シフト,減速ドット設置を行い,その後,仮設防護柵(ハイブリッドスリムガード:特許第6804681号)を設置します。

【ステップ3 増設鋼桁架設】
中央分離帯拡幅を行うため,中央分離帯の中央位置に増設鋼桁を架設します。その後,増設鋼桁と既設鋼桁を連結します。

【ステップ4 既設鋼桁ジャッキアップ】
既設RC床版を橋軸方向に切断し,連結した鋼桁をジャッキアップ(標準支間で60cm程度)し,既設RC床版の橋軸方向に導入されているプレストレスを開放します。


【ステップ5 既設RC床版撤去】
ジャッキアップした状態で,既設RC床版を搬出できる大きさに橋軸直角に切断し,それを撤去します。その後,鋼桁をジャッキダウンし,鋼桁の補強を実施します。また,同時に既設の鋼製支承をゴム支承に取替を行います。


【ステップ6 プレキャストPC床版(SLJスラブ)架設】
既設床版撤去後,鋼桁の打下を行い適切な鋼桁の補強を行います。補強後,門型クレーンを用いて新設床版(SLJスラブ)を架設します。その後,スタッドジベル溶植,床版間詰部の配筋・型枠・コンクリート打設を行います。舗装舗設を行い中央分離帯拡幅を完了します。


【ステップ7 下り線側床版取替】(車線切替前)
中央分離帯拡幅後,下り線床版取替を行うための車線シフト・仮設防護柵撤去・移動・再設置を行い,下り線床版取替を実施します。なお,床版取替は専用の床版架設機を用いて行います。

【ステップ8 上り線側床版取替】(車線切替前)
下り線床版取替後,上り線床版取替を行うための車線シフト・仮設防護柵撤去・移動・再設置を行い,上り線床版取替を実施します。なお,床版取替は専用の床版架設機を用いて行います。

【ステップ9 排水桝設置】
上り線床版取替後,中央分離帯下り線側に排水桝設置を行います。

【ステップ10 仮設防護柵による中央分離帯の設置】
排水桝設置後,中央分離帯として仮設防護柵を設置します。

【ステップ11 施工完了】
中央分離帯設置を完了し,多摩川橋はB活荷重対応の新しい橋梁に生まれ変わります。
